第4回 全国高校生英語ディベート大会で使用する論題の定義(補足規定と解説)
The Definition of the Resolution for the 4th AllJapanHigh School English Debate Tournament (Supplementary Regulations and Explanations)
2009年9月9日
前文 Preface
全国大会の全参加チームは、この文章に目を通し、よく理解した上で全国大会に臨まれるとともに、場合によっては既に準備した議論の見直しをお願いします。この文書では各地で生じた疑問などに基づきディベート論題の解釈について統一した規準を事前に打ち出すものです。全国大会では各地から高校生が集うことになりますが、「だまし討ち」や「混乱」を減らし、本質的な議論に集中できるようにしたいからです。なお,この文章は単なる解説文ではなく,大会運営にあたるHEnDA理事会によって承認を受けた規準です。つまり大会ルールブックに準ずる,特別ルールにあたります。これに違反する論題の解釈は,地方大会では許されていたとしても,全国大会では許されません。全国大会では,ジャッジは,この規準に基づいて勝敗の判定を行うことになりますので,これに違反した議論は,対戦相手の反論によらず,「門前払い」となる可能性もあります。全国大会の全参加チームは,この文章に目を通し,よく理解した上で全国大会に臨まれるとともに,場合によっては既に準備した議論の見直しをお願いします。
This “Definition” paper aims to clear the misunderstandings of this year’s debate topic, which was often variously interpreted and, in some cases, abusively interpreted in some district tournaments. This is not mere hints or suggestions, but an official statement authorized by the HEnDA council. It should be taken seriously and treated as supplements for the main tournament rulebook (“ground rules” for this year). We hope every team members and coaches read and understand the nature and limits of this year’s debate topic and share a common debating ground at the National Tournament.
The Japanese Government should prohibit worker dispatching (haken roudou).
「日本国政府は、派遣労働を禁止するべきである。是か非か。」
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2.論題の補足定義:Supplementary definition of the debate topic
①“worker dispatching”「派遣労働」とは,現行の「労働者派遣法」で規定され,認可された国内の間接雇用の労働制度全体のことをさすものとします。
"worker dispatching" should mean:
A Japanese labor system of indirect employment, which is defined in the "Worker Dispatching Law (roudousha haken hou) "
(cf. http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/&ky=dispatched+workers&page=5)
②“prohibit”「禁止」とは,派遣労働の制度全てを禁止することをさすものとします。例外を設ける解釈は認められません。すなわち,いくつかの業種や特定の派遣事業だけを禁止するような提案も認められませんし,逆に,いくつかの業種や特定の派遣事業だけを除くような提案も認められません(例えば,日雇い派遣や登録型派遣だけを禁止したり,逆に通訳業などを除いた派遣労働を禁止したりするというのは,許されません)
“prohibit” should
mean: To totally prohibit the system of worker dispatching itself without exception. Thus the Affirmative team should not propose some partial
prohibition of worker dispatching in some types of industries or undertakings, nor should they argue that some certain worker dispatching should be exceptionally continued. (For
example, it is not allowed to propose prohibition of worker dispatching limited to daily worker dispatching only, or registration-type only. Also, it is not
allowed to make translator dispatching or some specialized worker dispatching exceptions to the prohibition.)
肯定側は,立論において,論題を実行する上での具体的な計画(プランplan)について述べることが奨励されます。しかし,「プラン」で許されることは,基本的には,以上の論題を実行する上で直接関係することがらだけです。
To avoid unnecessary confusion, the affirmative side can propose some additional concrete plans to execute the policy described by the topic. But these plans should be limited to some necessary minimum actions which are directly related in carrying out the policy.
例えば次のようなプランは,政策を実行する上で必要であるので,許容されます。
The following are the examples of legitimate “plans”
○「派遣禁止」に関わる法律と各地方公共団体の条例は全て適宜,変更・廃止する。
Necessary modifications of
related laws and local regulations should be done.
○「派遣禁止」について,全国民に周知徹底を図る。派遣事業者は,全派遣労働者に,その旨,通達する義務を設ける。
The nation and the workers should
be publicly informed about the policy.
○周知期間として3年間を置くことにする。(あるいは「施行は,2013年1月から」などと言っても構いません)
The policy should be carried out
from 2013. We will take 3 years for publicity.
○周知・法整備のためには年間10億円程度の予算を設ける。
The budget concerning publicity
and modification of the system should be no more than 1 billion yens annually.
○周知期間中も派遣事業を行っても良いが,事業者には,派遣労働がやがて禁止されることを派遣労働者に事前に十分確認させ,混乱がおきないように指導する。
Worker dispatching can be
continued until the law is carried out, but dispatch agencies should be required to get consent with the workers so that no confusion will occur when the worker dispatching system
terminates.
○施行後は,禁止された派遣労働が行われないように,各官庁は適宜監視し,違反者には,関連労働法規を用いて処罰を行うようにする。
Related government agencies
should check and punish the companies, so that underground dispatch undertakings should not take place.
○偽装請負は,従来通り,禁止する。
Disguised subcontracts should be
kept prohibited
こうしたプランは,論題ときわめて直接的につながり,現実的に政策を実行する上で不可分なほどに合理的な付則であるので,肯定側が(諸々のDisadvantageへの反論材料とするためにも)述べることは許されます。
逆に,論題の定義と直接には関係しない計画や,一見すると関係しそうなことがらであっても,たとえば「正社員雇用の直接的な促進」のようなプランを肯定側立論で述べることは,許されません(もちろん肯定側だけでなく,否定側も,正社員化が促進されると決めつけてディベートすることも許されません)
On the other hand, the Affirmative side cannot propose plans which only have indirect relations to the “prohibition of worker dispatching” defined as above. The following is a brief list of plans that are considered abusive. Judges will ignore the abusive portions of the plans that have no direct relation to the topic. Any ADs / DAs that stem from such abusive portion should also be ignored.
Especially, plans that “promote regular employment” were often seen in district tournaments, but those have no direct relation the prohibition, and are totally independent issues (you can promote regular employment without the prohibition of worker dispatching), hence should not be proposed.
×派遣先企業に,元派遣労働者を正社員として雇用する義務を負わせる
Client companies of dispatched workers should be required to reemploy the workers as regular workers
×派遣先企業に,派遣社員を雇用し続けるように義務を負わせる
Client companies of dispatched workers should be required to continue employing the workers.
×企業に,正社員化を促すような補助金を支出する
Subsidies to promote regular employment should be given to client companies of dispatched workers.
×企業に,雇用を促すような補助金を支出する
Subsidies to promote reemployment of former dispatched workers should be given.
×派遣会社に,元派遣労働者の就職先を斡旋させる
Dispatch agencies should be required to find new jobs for the former dispatched workers
×失業者に職業訓練を行う
Job training should be given to the unemployed.
×失業者への職業斡旋を強化する
Public/private job placement undertakings should be strengthened.
×失業者に住居や生活費を提供する。
Housings or living expenses should be provided to the unemployed
×雇用保険の加入の義務化
All workers should be on the employment insurance list.
×各都道府県の,最低賃金を上げる。
Minimum legal wages of each prefecture should be raised.
×日雇いバイト・パートを禁止する
Daily part-time jobs should be prohibited.
×正社員の長時間労働を禁止する(ワークライフバランスの提案)
Working hours of each regular employee should be shortened (promotion of work-life balance)
×企業に,週4日勤務などを奨励し,その分,他の労働者を雇用するようにする(ワークシェアリングの提案)
Companies should introduce 4 days a week shift to the regular employees and instead hire more regular employees (promotion of job-sharing).
こうした政策のいくつかは,もし「派遣労働の禁止」が行われたとしたら確かに現実の政治では,実行されることもありえるかもしれません。しかし,ディベート大会で行われているのは,特定の制限された論題を用いての議論の練習であって,現実の政治ではありません。肯定・否定のバランスをとり,議論の範囲を制限することで教育効果をあげねば意味がありません。
言うまでもないことですが,以上の反則は例であって,ここにあがっていないからと言ってプランが許容されるわけではありません。とりわけ,新しいプランを出す上で反則にならないかを疑問に持った場合,次のような二つの問題意識を持つことが重要でしょう。
A)ディベート論題に新たな要素を付け加えていないか?(問題を拡大していないか?)――この論題では,「派遣労働の禁止」をすべきかだけが直接的には問われています。あらゆる労働問題や貧困問題を解決しようという大きな議論ではありません。派遣労働者は,全労働者のせいぜい3~5%程度に過ぎません。直接関連しない問題領域を議論しようとするのは,だまし討ち的でありアンフェアである可能性が高いです。
B)ディベート論題なしにでも実行できるプランかどうか?(政策的に独立した問題でないか?)――例えば,正規労働者雇用の促進は,派遣労働を禁止しなくても十分実行可能です(現に部分的には行われています)。貧困対策についてもそうです。また失業者をいかにスムーズに再雇用するか,あるいは雇用のミスマッチが起きないようにするかなども同様です。いかに社会問題として重要であろうとも,今回の論題とは全く独立した問題であり,プランとしては認められません。
いずれにせよ,なるべく「ずるいプラン」は出さず,「本質的な議論」で勝負しましょう
It is important not to present abusive plans. Ask two questions to check whether your “plan” is abusive or not: A) Doesn’t your plan add extra elements other than the action required in the debate topic? B) Can’t your plan be implemented independently without the implementation of the debate topic?
4.1 プランの反則例の解説(正規雇用の義務化や促進)
県大会などでよく見られたケースとして,派遣労働を禁止することに付け加えて,派遣先に元派遣労働者を正社員として雇うことを義務化する,というプランをだす場合が見受けられますが,これは大会ルール上,反則です。
In some local tournaments, some teams proposed that “Client companies of dispatched workers should be required to reemploy the workers as regular workers” as their plan. But this is a typical example of an abusive and unfair plan. This year’s debate topic just focuses on the “prohibiting”, not requiring reemployments. “Required reemployment” plan neglects to prove what the AFF side is required to prove, so to allow such plan is very unfair for the NEG side (Plus, in real world policy, such requirement is not only difficult to carry out, it is also unconstitutional, no doubt. )
Obviously, it is totally OK to argue as a plan’s Advantage (AD) that the “prohibition” will cause “reemployment as regular workers”; namely, you should argue that the reemployment will increase by the effect of “prohibition” without any governmental requirements.
ディベート理論的には(専門用語ではextra topical)1)明らかに派遣労働の禁止だけでなく,正社員の雇用を義務化するという新たな要素を付け加えております。また 2) 雇用の義務化は,派遣労働を廃止しなくても現状でも十分に行える独立した問題です(現行の法規でも,3年間続けて派遣で雇ったら,一部の業種を除いて,労働者の要望に応じて正規雇用者として雇用しなおす義務が企業側には科されています。これを強化することは廃止せずともできます)。
法律論的にも,実際には,政府が民間企業に特定の労働者の雇用を強制する手段は,合理的にはありませんので,説得力のないプランです。実際には,障害者雇用や男女雇用均等などの差別解消のために,大企業に努力義務を課すことすらも難しいありさまです(また付言すれば,企業への国家のそうした強制は,共産主義国でもなければ違憲です。ついでに現状では30%近くの派遣労働者はそもそも正社員化を望んでおりませんので,権利を侵害もはなはだしいです)。
正規雇用やそもそも雇用そのものを,補助金を出して奨励するという促進策のプランも,反則となります。これも新たな要素が加わっているだけでなく,別に派遣労働を禁止しなくても独立して行える政策です。
このディベートを通じて考えて欲しい社会問題としては,派遣労働が本当に諸悪の根源か,派遣労働制度がなくなって正社員化が進むかあるいは逆に阻害されるかどうか,という点です。他の雇用策の是非はとりあげないことが,ディベートでは求められます。
ただし,混同しないでほしいのですが,派遣労働の禁止によって正規雇用が促進されるという論点自体は,「正規雇用をうながすプラン」を付け加えないのならば,もっとも本質的に重要な争点とさえ言えます。だからプランでなく,ADの形でこれを述べることはもちろん許されております(それどころか,この論題での最も重要なADかもしれません)。
AD 正社員の増大
a)現状:派遣を含む非正規労働者の比率は,年々増加傾向であり,38%にまで増えている(統計などの証拠をだします)これは派遣労働を解禁した,2003年の小泉改革の結果である(専門家の分析などの証拠をだします)
b)効果:派遣労働を禁止すると,結果として企業は正社員として労働者を雇用するようになる(実例などの証拠などから推論を述べます)結果として正規労働者が増える
c)重要性:正規雇用される労働者が増えることが,個々の労働者の生活の安定につながるだけでなく,社会にとって重要(専門家の証言などの証拠を示します)
この議論の場合は,正規雇用の安定が,あくまで論題の定義の範囲での「派遣労働禁止」から生じる効果effectとして論じられています。それ以外のプランから何も出していません。それ故,まったくルール上は正当な論証となり,問題はありません。
否定側の時相手チームがプランの反則を行った場合は以下のような対処をしてください
①まずは質疑応答で,プランの中身を確認して,禁止以外の部分がないかチェックしてください“On your plan No. 3, you said you will promote regular employment, but this does not directly come from just prohibition of worker dispatching, does it?”
②否定アタック(デメリットに関係する場合は否定立論で指摘するのも可能)で,プランの反則があることを,場合によってはこの文書をみせながらジャッジに訴えてください。“According to this year’s debate topic definitions, The AFF. should argue ADs that come from the prohibition itself. The AFF. cannot add plans that directly enhance the regular workers.”
③否定側アタックでは,もし相手のADが,反則のプランから来ている場合は, “Their AD comes from the plan that has no direct connection to the prohibition itself. So please ignore it” 等とジャッジに訴えてください
④反則のプランを用いて,DAの攻撃がされた場合は,否定立論や否定ディフェンスなどで,反則のプランによる攻撃は無効だとジャッジに訴えてください。例えば,“They attacked the DA arguing that their plan require companies to hire regular workers, however their plan itself is abusive, it has no direct relation to this debate topic. So their attack is invalid.”
ジャッジは,基本的には否定側の指摘を待たずとも,明らかに禁止と直接関係のないプランや,そのプランをもとに主張されたADは,無視するか,それともADのうち,派遣労働禁止から直接的に結果するところだけを考慮の対象に入れるようにしてください
Judges should ignore the abusive portions of the plans that have no direct relation to the topic, even if the Negative team fails to point that out. Any ADs / DAs that stem from such abusive portions should also be ignored.