ジャッジ基準

1回 全国高校生英語ディベート大会 ジャッジ基準

矢野 善郎 [i]

 

ジャッジの基本理念

「全国高校英語ディベート大会」のジャッジは,生徒の今後の成長にも影響する点を考慮に入れ,単なる判定者ではなく,教育者として以下の三原則に配慮し,公平かつ客観的(理性的)に判定し,判定理由を分かりやすく説明するものとする

公平性fairness 両チームの議論をできるだけ公平に配慮した判定を

客観性objectivity カンやフィーリングでなく,理性的で根拠のある判定を

説明責任accountability判定理由が分かりやすく説明できるようにする

 

2. ジャッジング(勝ち負け判定)の基本

議論の内容を客観的に比較し,論題が肯定されたか否定されたかを合理的に判断して,試合の勝敗を判定する。ジャッジは,必ずどちらかを勝ち,どちらかを負けにする。引き分けはない。具体的な判定の際には,以下の三点に気をつける必要がある(上の三原則に対応。大会ルールも適宜参照)――発音コンテストではないので,スピーチや発音の上手さなどは勝敗の直接の判定理由にはいれない(もちろん聞き取りやすい英語の方が,論点が伝わりやすいので間接的には影響する)。

 

ディベーター(討論者)がルールに従って論点のみで判断する――あくまで討論者が試合の中で出した論点の強弱のみで判定する。自分の意見や,前の試合までの記憶などは持ち込まない。ルールに従わない議論,例えばディフェンスや総括になっていきなり出された後出しの「新しい議論」は,原則として無視する

最後まで生き残った論点で判定する――最後の総括まで繰り返し強調された論点(メリット・デメリット)の強弱を,相手の攻撃をどれだけディフェンス出来ているかを加減して評価し,総合して判定する。(立論のみ,または途中の各部分のみで判定しない。)

判定理由とアドバイスと区別して試合後に述べる――(前述1.のように)試合の勝ち負けの判定は,試合の中でディベーターの議論で判定する。試合に出なかったが,ジャッジの目から見て議論が拙い点などは,判定とは別に,アドバイスで述べる

 

3. 判定の出し方

あくまで討論者の議論を聞き,その内容・論点を考慮して,最終的なプラスマイナスを客観的に比較し,3人のジャッジが独自の判断で投票する。次の5ステップで判断する。

 

肯定側・否定側が立論で提出した主要な論点の中で,総括まで述べられたものを,リストアップする

それぞれの論点(メリット・デメリット)のもっともらしさ(probability蓋然性)を判定する――例えばメリットについては,プランがある方が,プランなしの世の中のままより,メリットが確実に得られるということが言えているかを判定。否定側のアタックを受けて回復できなかった場合などには,もっともらしさをゼロにする。逆に立論やディフェンスの証明が良ければ,100%近いもっともらしさに近づく

それぞれの論点(メリット・デメリット)の価値(value)を判定する――例えばメリットについては,「どのくらいの規模で,どの方向に良くなるのか」を判定する(デメリットなら,「悪くなる」度合い)。ほとんど理由も述べられていないなら,高く評価しない。「良し悪し」の価値については,試合中に逆転することもありえるのに注意。例えば,「海外からの旅行者が増える」のは「良い」と言われていたのを,反対側が攻撃して「旅行者が増えると,テロの危険も増える」などと逆の価値付けになる(ターンturnaround)こともありうる。

それぞれの論点(メリット・デメリット)の議論の強さを判定する――生き残った肯定側のメリットの(もっともらしさ)×(価値)と掛け合わせて,議論の強さをそれぞれ判定する。同様に,否定側のデメリットの(もっともらしさ×価値)も判定する。

論点を全て合計して,比較判断する――肯定側のメリットの強さ(もっともらしさ×価値)と,否定側のデメリットの強さ(もっともらしさ×価値)とを足しあわし,比較にかける。
 その際,比較基準value criteriaを重視する。討論では何の示唆もでていない場合は,ジャッジ独自の判断で比較評価する。

 

例外:どうしても差が見つからない場合

 万が一,何をどう比較しても,肯定・否定の議論の強さに差がないと判断される例外的な場合は,ディベート大会などで広く採用される慣習に従い,否定側の勝ちとする。

 

以下のような判定チャート(希望者に当日配布)を埋めて判定することを奨励する

 

①論点リスト

②もっともらしさ

× ③価値

④議論の強さ

メリット1      渡航者が増え,国際交流が進む

高い(海外からの渡航者が増える証明が秀逸)

大きい

(国際交流の価値)

(説得力がある論点)

メリット2

英語で世界共通文化できる

ゼロ(ほとんど証明がない)

大きい

(新たな世界文化)

×(価値は大きいが実現可能性ない)

デメリット1

日本人の,日本語力の低下

ある(肯定の攻撃で減らされたが残っている)

小さい(何で日本語力が落ちると悪いのか説明不足)

△(可能性はあるが,深刻な問題とは伝わらない)

デメリット2

税金が遣われる

 

 

×(試合の途中で忘れられる)

⑤比較基準      肯定側は,国際交流の方が,一国の視点より重要だと指摘

否定側は,特に基準を言っていない

結論 肯定側の勝ち  メリット1とデメリット1は両方あるが,メリット1の方が証明として強いし,しかも肯定側の基準の方が明確で納得がいき,結果としてデメリットを上回る

 

4. コミュニケーション点

各ジャッジは,各チームに5点満点・最低点1点のコミュニケーション点をつける(小数点はなし,整数のみ)。コミュニケーション点は,各チームがどれだけ効果的に聴衆・ジャッジとコミュニケーションをとることに成功したかで採点する。基準は,反則などの減点がない限り,次のようなスケールで採点する(3が平均。5や1は例外的。)

5 Excellent

全てのスピーチが分かりやすい(スピードも適切で,間の取り方なども良い)。かつチームの全員が聴衆とコミュニケーションがとれている(アイコンタクトも適切で,マナーも良い)

4 Good

ほとんどのスピーチが分かりやすい。ほとんどのメンバーが聴衆とおおむね良くコミュニケーションができている

3 Average

多少の難はあるが,おおむねスピーチもわかりやすく,メンバーの過半が問題ないコミュニケーションができている

2 Below Average

スピーチが分かりにくくなることが目立ち,コミュニケーションが取れていないことも目立つ

1 Poor

スピーチのほとんどが分かりにくく,チームの誰もコミュニケーションを取れていない

 あるチームの①メンバーの試合態度が悪い(私語・異音で妨害,ジャッジの試合指揮に従わない),②質疑の際に対戦相手へのマナーが悪い,③あまりに質疑に応答しない,④相手側の証拠資料の閲覧に協力しない場合には,ジャッジはその違反のひどさに応じて,適宜コミュニケーション・ポイントを減点する。減点があった場合でも,最低点が1点を下回ることはないものとする。

 

5 スピーチ中の試合指揮

ジャッジ(とりわけメイン・ジャッジ)は,試合の単なる進行以外にも,教育的な観点から必要最低限の試合指揮を,以下に該当するケースでは行う(ただし試合内容には口出ししない)

スピーチ伝達上の問題がある場合――スピーチがあまりに小さい声で行われている,もしくは高校生が理解できる通常の英語会話スピードをはるかに上回るスピードでスピーチが行われている場合。

質疑の進行に問題がある場合――質疑が質問形式でなく,延々とスピーチになっている場合。質疑が攻撃的になっている時。応答側が,明らかに答えを引き延ばそうとしているとき,あるいは,あまりに質問がないときなど。

静寂性の確保の上で問題がある場合――スピーチ中に私語や,異音(よくあるのはボールペンのカチャカチャ音)を発している生徒・観客がいる場合。試合場周辺の物音がひどい場合など。

 



[i] やの よしろう:中央大学文学部助教授・博士(社会学)。日本ディベート協会J.D.A.会長。Email: yano@tamacc.chuo-u.ac.jp