第一回 全国高校生英語ディベート大会

 

大会ルール

 

2006年11月27日

 

 

 

 

 

 

この全国高校生英語ディベート大会では,多くの地域から,異なったディベート経験をしてきた高校生が集い,共通の土俵で競い合います。この大会ルールの目的は,最低限の共通の土台を設けることで,楽しく意味のある大会を円滑に進めていくことにあります。出場者の高校生の皆さんと,ジャッジ・顧問の先生は試合前に是非一度目を通してください。なお重要性の高い項目には,四角の枠で囲みましたので,どうか特に注意してください。*アステリスク付きの小さな字の部分は,解説ですので必要に応じ目を通してください。

 

 

第一回ということでルールも最低限のものとなります。各地方大会で生じた問題などをくみながら最善のものをと努力はしてみましたが,色々と想定外の問題も起きうるかもしれません。ただしルールに書いていないからと言って,それ以外は何をやっても良いという訳ではありません。高校生にふさわしくない行為はもちろん行うべきではありませんし,フェア・プレーの精神に違反してはならないということを忘れないでください。

 

 

審査や勝者の決定にあたっては,大会審査・実行行委員会が最終的に責任を負うことにします。(ルールに書いていない判断や,例外的な事態についての決定は,全参加者に予選中あるいは,大会終了後に発表します)

 

1.大会

1.1予選

1.2本選トーナメント

1.3ベスト・ディベーター

2.試合進行と各スピーチの役割

2.1各スピーチの役割と注意事項

2.2ジャッジ

2.3スピーチと準備時間

3.証拠資料

3.1証拠資料

3.2証拠資料の引用の仕方

 

1. 大会

 

 

 

この大会では,四試合の予選を行った後,以下の基準に従い,8チームの予選通過校を選ぶことにします。その後,8チームにより,準々決勝・準決勝・決勝とトーナメント方式(一度負けたらそこで上には上がれない)での本選を行い,優勝者を決めます。

 

 

 

 

 

 

1.1 予選

 

 

 

1.1.1 予選運営方法

 

各チームは,肯定・否定側ディベートを,原則としてそれぞれ2試合ずつ行います(ただし不戦勝の試合などがある場合は例外とします)。原則として同じチームとは2回あたらないようにします。原則として同じ学校同士も対戦しないようにします。予選1・2試合目は,クジにより大会運営者が決定します。3・4試合目はその前の試合までの順位を元に,パワー・ペアリングを行います。これは原則として同じ勝ち数同士が対戦する方式です。*パワー・ペアリングは偶然のあたりの良さで勝つチームをでにくくする方式であり,全勝や全敗チームをできるだけ減らし,しかも極端な実力差の対戦を減らす効果も期待されます。米国や日本の大学ディベートなどで広く採用されている方式です。技術的な詳細は,別文書などでパワー・ペアリングにあたっては,いわゆる「ハイ・ロー原則」を採用します(同じ勝ち数をあげているチーム集合の中では,順位の上位のチームが,できるだけ下位のチームと対戦する原則)。*肯定・否定を同数にする基準や,同校対戦・同チーム対戦をふせぐ基準を優先して対戦チームを決めることにしますので,多少前後する可能性があります。また同じ勝ち数をあげているチームが奇数チームある場合などは,必ずしも同じ勝ち数のチームと対戦するとは限りません。

 

 

 

 

 

 

1.1.2 予選通過基準

 

大会の予選通過チームは,以下の基準にしたがって全体の順位を決め,上位8チームとします。

 

第1基準 勝ち数(不戦勝も含む)の多いチームは,順位が上となる。

第2基準 同じ勝ち数の場合,不戦勝を除く各試合の平均投票数(そのチームが勝ちとしたジャッジの数)が高いチームの順位が上となる。

 

第3基準 勝ち数・平均投票数も同じ場合,不戦勝を除く各試合の平均コミュニケーション点が高いチームの順位が上となる。

 

第4基準 勝ち数・平均投票数・平均コミュニケーション点も同じ場合,不戦勝を除く各試合でそのチームに所属するディベーターがベスト・ディベーター候補を獲得した数の平均が多いチームの順位が上となる。

 

第5基準 以上の条件の全てが同率の場合,審査委員の立ち会いの下,該当するチームの代表同士のじゃんけん(一回勝負)により,勝者が予選通過チームとする。

 

 

 

なお証拠資料の不正などのルール違反や,甚だしく高校生にふさわしからぬ言動があったと審査委員が判断した場合などには,予選通過対象チームから外すこともありえます。

 

 

 

 

 

 

1.1.3 予選への遅刻・欠場など

 

体調不良や交通事情などによるやむを得ない遅刻以外は,予選参加を認めません。やむを得ない遅刻の場合,他の試合の進行具合とのかねあいを考え,大会運営者の判断で一試合(あるいは二試合)だけ不戦敗とするか,それとも遅延しての開始を認めるかを判断することにします。体調不良や交通事情などのやむを得ない事情の場合以外は,予選試合の棄権は認められません。例えば本戦での順位を操作するために意図的に欠場ないしは無気力に試合をしたと認められた場合などは,予選通過対象チームから外すこともありえます。

 

 

 

 

 

 

1.2 本選トーナメント

 

 

 

 

予選を通過した8チームにより,準々決勝・準決勝・決勝とトーナメント方式(一度負けたらそこで上には上がれない)で優勝者を決めます。予選通過したチームは通過した順位に従い,以下のように対戦することにします。

 

 

 

 

 

 

予選1位

 

     

 

 

 

3位

 

       

8位

 

 

準決勝

 

決勝

 

   

6位

 

準々決勝

 

     

5位

 

       

7位

 

     

準決勝

 

 

4位

 

       

準々決勝

 

2位

 

         

 

 

 

 

 

決勝で負けたチームが準優勝となります。準決勝で負けた2チームは,両チームとも3位とします。3位決定戦は行いません。なお本選では肯定・否定のどちらでディベートするかはクジで決定します。同じ学校のチーム同士も対戦を行い,予選で対戦したことのあるチーム同士も対戦はありえます。原則として棄権は認められません。予選終了後,本選通過チームの発表前に体調不良などで棄権が出た場合,その棄権チームを除いた予選通過順位をもとに本選の対戦を行うことにします。なお万が一,発表後に棄権チームが出た場合には,対戦枠の変更や繰り上げなどは一切行わず,棄権チームの対戦予定チームが不戦勝ということで本選を進めることにします。*本選は,多くの学校にとって試合を観戦するという学習の機会でもあります。本選の棄権はよほどの事情がない限り認められません(同じ学校のチーム同士も対戦をお願いします)。

 

 

 

 

 

 

1.3 ベスト・ディベーター

 

 

 

 

この大会では個人賞としていくつかのベスト・ディベーター賞(最優秀ディベーター賞および優秀ディベーター賞)を贈ることにします。予選各試合および本選の各試合で,各ジャッジは,その試合で最もよい働きをしたディベーターを選び,ベスト・ディベーター候補として(他のジャッジとは独立して)投票することにします。その際,試合では敗者となったチームから選ぶことも可能です。チームの他のメンバーと連携のないスタンド・プレイヤーは候補として選ばず,チームに最も貢献する働きをしたディベーターから候補を選ぶことにします。最終的に,準々決勝までに残った8チームに所属する個人の中で,予選から決勝まで通算し,ジャッジの投票を最も多く獲得した個人を,順に表彰することにします。

 

 

 

 

 

 

2.試合進行と各スピーチの役割

 

 

 

2.1 各スピーチの役割と注意事項

 

 各試合には,以下のスピーチがあります。

 

 

 

 

 

 

スピーチ

 

時間

 

①肯定 立論Affirmative Constructive Speech

 

4分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

②否定 質疑Questions from the Negative

 

3分

 

③否定 立論Negative Constructive Speech

 

4分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

④肯定 質疑Questions from the Affirmative

 

3分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

⑤否定 アタックNegative Attack

 

2分

 

⑥肯定 質疑Questions from the Affirmative

 

2分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

⑦肯定 アタックAffirmative Attack

 

2分

 

⑧否定 質疑Questions from the Negative

 

2分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

⑨肯定 ディフェンスAffirmative Defense

 

2分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

⑩否定 ディフェンスNegative Defense

 

2分

 

    準備時間Preparation Time

 

1分

 

⑪肯定 総括Affirmative Summary

 

2分

 

⑫否定 総括Negative Summary

 

2分

 

 

37分

 

 

 

 

 

 

それぞれ役割が異なりますので,以下の指針に従い,できるだけ議論をかみ合わせるように努力してください。*なお以下は最低限の指針にすぎません。分かりやすく説得力のある,そして高校生らしいユニークな議論を展開してください。

 

 

 

 

 

 

2.1.1 肯定立論①

 

 

 

肯定立論では,論題がなぜ肯定されるかということを証明するために,論題を明確に定義づけ(プランを提案),メリットを証明することが最も重要な役割となります。

 

 

 

 

 

 

2.1.1.1 肯定側プラン

 

大会論題をどう定義し,具体的な政策として提案するかを,その提案内容を「プラン」と言います。肯定立論ではプランを必ず読んでください。*これを明確に述べることで,ジャッジも対戦相手も明確に肯定側チームの主張が分かります。またメリットが得られるのかを具体的に証明しやすくなりますし,相手から指摘されたデメリットに反論しやすくもなりますし,立論には不可欠といえるくらい重要な要素です。第一回大会については,大会募集要項に記したように,ジャッジは「英語の公用語にする」ということを,「公の機関の行政・司法・立法サービスすべてで日英言語を併記・併用する」ということは最低限含むものとして取り扱います。万が一,プランが立論にない場合,この最低限のプランを行うという立場だとジャッジは解釈します。その他の点,英語教育の強化などを,プランに採用するかは各チームに任されます。*なお,「何を行わないか」も極力述べることで議論がかみ合いやすくなりますので,「英語教育の強化などは特に行わない」などと一言述べることを奨励します。

 

 

 

 

 

 

2.1.1.2 論題と関係のないプランの禁止

 

肯定側は,論題とは関係のないプランを述べることは禁止します。第一回の論題では,英語の公用語化の是非だけが問題になります。あまりに論題と関係のないプランが提案された場合,ジャッジは,そうした無関係な提案から生じるメリットを無視することにします。*例えば,「英語を利用してアジア共同体を作ろう」と提案したり,「中国語も公用語にしよう」などと提案したりすることは,「英語の公用語化」とは直接の関係はありませんので言及しないでください。

 

 

 

 

 

 

2.1.1.3 メリット数の制限と,メリットの証明

 

メリットの数は,最大で二つとします。*これは,できるだけささいな論点を省き,確実な証明のある議論を行うための制限です。メリットを確実に証明するためには,(A)プランがない状態ではなぜメリットが得られないのか(内因性),(B)プランから何故メリットが得られると予想されるのか(解決性),(C)メリットにどれだけの客観的な価値があるのか(重要性)という三つの論点を示すことを奨励します。なおメリットの中に二つ以上のかなり異なった価値(重要性)がまざっているような場合は,別のメリットに分けてください。見かけは二つでも,それを越える数のメリットが入っている場合は,ジャッジは主要な二つ以外は無視することにします。

 

 

 

 

 

 

2.1.2 否定立論③

 

 

 

否定立論では,論題がなぜ否定されるべきかということを証明するために,否定側の基本方針を述べ,デメリットを証明することが最も重要な役割となります。

 

 

 

 

 

 

2.1.2.1 デメリット数の制限と,デメリットの証明

 

デメリットの数は,最大で二つとします。*これは,できるだけささいな論点を省き,確実な証明のある議論を行うための制限です。デメリットを確実に証明するためには,(A)プランがない状態ではなぜデメリットが発生しないのか(固有性),(B)プランから何故デメリットが発生すると予想されるのか(リンク・発生性),(C)デメリットにどれだけの客観的な価値があるのか(重要性)という三つの論点を示すことを奨励します。なおデメリットの中に二つ以上のかなり異なった価値(重要性)がまざっているような場合は,別のデメリットに分けてください。見かけは二つ以内でも,それを越えるデメリットが入っている場合は,ジャッジは主要な二つ以外は無視することにします。

 

 

 

 

 

 

2.1.2.2 肯定立論の証明の吟味は極力アタックで行う

 

否定立論では,できるだけ論題・プランから生じるデメリットの証明に時間を使ってください。どうしても立論での時間が余ってしまった場合などにのみ,こうした肯定側メリットの証明の不備を攻撃するような「アタック」が許されます。*「プランからメリットが生じない」あるいは「プランは必要ない」という種類の議論は,否定アタックの担当者で行うべき事柄です。デメリットを論じる方が,単に相手の不備を問題にするより否定としては強いだけでなく,アタック担当者と分業を行うことで有効に時間を使えます。

 

 

 

 

 

 

2.1.3 否定アタック⑤

 

否定アタックでは,肯定チームが立論で述べたメリットの証明の問題点を攻撃することが役割となります。例えば(A)プランがない状態でもメリットは得られ,プランは必要ないという攻撃(内因性の攻撃)や,(B)プランからメリットが得られるとは予想できないという攻撃(解決性の攻撃)や,(C)メリットには客観的な価値がないという攻撃(重要性の攻撃)などがこれに該当します。ここで新たにデメリットにあたるものを追加することは禁止します。もし明らかに新しいデメリットが提出された場合,ジャッジはそれを「新しい議論」と判断して無視することにします。*アタックとデメリットと紛らわしい場合もあるでしょうが,例えばこの論題で言うならば,「英語の公用語には莫大なコストがかかる」という主張は,実際にはデメリットです。また「英語の公用語化・英語教育は,英語上達にとって逆効果である」という主張をする場合も,単なるアタックではなく,デメリットです。こうした議論は,否定立論で行ってください。

 

 

 

 

 

 

2.1.4 肯定アタック⑦

 

肯定アタックでは,否定チームが立論で述べたデメリットの証明の問題点を攻撃することが主要な役割となります。例えば(A)プランがない状態でもデメリットは発生してしまうという攻撃(固有性の攻撃)や,(B)プランからデメリットが発生するとは予想されないという攻撃(リンク・発生性の攻撃)や,(C)デメリットに客観的な価値がないという攻撃(重要性の攻撃)などがこれに該当します。直前に行われた否定アタックへの再反論を行うことは禁止します。それらは,この直後のディフェンスで行ってください。もし明らかに否定アタックへの再反論を先走って行っている場合は,ジャッジは無視することにします。なお例外的に,否定立論でアタックに該当するものが議論されていた場合には,ここで反論を加えることは許されます。ここで新たにメリットにあたるものを追加することは禁止します。もし明らかに新しいメリットが提出された場合,ジャッジはそれを「新しい議論」と判断して無視することにします。

 

 

 

 

 

 

2.1.5 肯定ディフェンス⑨

 

肯定ディフェンスでは,否定アタックでの反論に対してディフェンス(再反論)しながら,肯定立論で提案したプランからメリットが発生するということを再度証明しなおすこと(再構築)が役割です。ここでは防御的なスピーチしか行ってはなりません。つまり肯定立論で論じたメリットへの否定側のアタックが無効であるということを論じてください。新しいプランや新しいメリットに相当するものをここで追加することは許されません。また否定立論への新しいアタックを出すことも許されません。もし追加メリットやアタック的な議論が行われた場合,ジャッジはそれらを「新しい議論」と判断して無視することにします。ただし肯定ディフェンスでも,相手側に直接アタックを付け加えるのでないならば,今までの議論の比較をする観点を出すことは,許されます。*例えば,否定立論でのデメリットの重要性よりも,肯定立論のメリットの重要性の方が上回るという主張をすることは,相手の重要性そのものを攻撃している訳ではないのでアタックではないですが,比較となっております。いわば守ることに主眼を置いた間接的な攻めであり,総括につながるので許容されます。

 

 

 

 

 

 

2.1.6 否定ディフェンス⑩

 

否定ディフェンスでは,肯定アタックでの反論に対してディフェンス(再反論)しながら,否定立論で論じたデメリットが発生するということを再度証明しなおすこと(再構築)が役割です。ここでは防御的なスピーチしか行ってはなりません。つまり否定立論で論じたデメリットへの肯定側のアタックが無効であるということを論じてください。新しいデメリットに相当するものをここで追加することは許されません。また肯定立論への新しいアタックを出すことも許されませんし,直前の肯定ディフェンスへの再々反論も許されません。もしそうした議論が行われた場合,ジャッジはそれらを「新しい議論」と判断して無視することにします。ただし否定ディフェンスでも,相手側に直接アタックを付け加えるのでないならば,今までの議論の比較をする観点を出すことは,許されます。*例えば,肯定立論でのメリットの重要性よりも,否定立論のデメリットの重要性の方が上回るという主張をすることは,相手の重要性そのものを攻撃している訳ではないのでアタックではないですが,比較となっております。いわば守ることに主眼を置いた間接的な攻めであり,総括につながるので許容されます。

 

 

 

 

 

 

2.1.7 肯定総括⑪

 

 肯定総括では,試合中に提出された,肯定側のメリットと否定側のデメリット双方について,反論・再反論も含めて要約を行い,それらを総合し比較するとどうして肯定側を勝ちにすべきなのかを論じることが役割です。

 

ここでも新しいプランや新しいメリットに相当するものを追加することは許されません。また否定立論への新しいアタックを出すことも許されません。もしそうした議論が行われた場合,ジャッジはそれらを「新しい議論」と判断して無視することにします。ただし(ミクロな)証拠比較(たとえば否定ディフェンスへの再々反論にあたる点)や,試合全体の比較に関わる大きな(マクロな)目からも比較の観点を出すことは許されます。*例えばデメリットよりも,なぜメリットの方が上回るかという価値比較基準についての主張は重要な比較であり,むしろ積極的に奨励されます。

 

 

 

 

 

 

2.1.8 否定総括⑫

 

 否定総括では,試合中に提出された,否定側のデメリットと肯定側のメリット双方について,反論・再反論も含めて要約を行い,それらを総合し比較するとどうして否定側を勝ちにすべきなのかを論じることが役割です。

 

ここでも新しいデメリットに相当するものを追加することは許されません。また肯定立論への新しいアタックを出すことも許されません。もしそうした議論が行われた場合,ジャッジはそれらを「新しい議論」と判断して無視することにします。ただし(ミクロな)証拠比較(たとえば肯定ディフェンスへの再々反論にあたる点)や,試合全体の比較に関わる大きな(マクロな)目からも比較の観点を出すことは許されます。*例えばメリットよりも,なぜデメリットの方が上回るかという価値比較基準についての主張は重要であり,むしろ積極的に奨励されます。

 

 

 

 

 

 

2.1.9 質疑応答②④⑥⑧

 

 質疑応答は,質問する側のチームが進行について決定することにします。つまり応答側の答えがあまりに時間がかかっている場合や的はずれな答えである場合などは,答えをさえぎり次の質問にいくことは許されます。*相手の答えをさえぎったり,答えを待たずに次の質問肉場合には,相手に失礼にならないような表現を用いて断ってからにしてください。質疑応答の際には,双方ともにお互いに対してできるだけ誠実に,できるだけ多くの質疑が行われるようにスピーディに応答することを努力してください。アタックの後の質疑(⑥・⑧)では,原則として,相手側の行ったアタックについての質問を行ってください。ただし話が相手側の立論との矛盾などに関連する場合などでは,相手の立論について聞くことも許します。

 

 

 

 

 

 

2.2 ジャッジ

 

 

 

ジャッジは,双方のチームの議論の内容を公平に・客観的に比較し,最終的に論題が肯定されたか否定されたかを合理的に判断して,試合の勝敗を判定することにします。ジャッジは,それぞれ独立に考え,必ずどちらかのチームに勝ちの投票をします(引き分けはありません)。勝敗の他,ジャッジ(とりわけメイン・ジャッジ)は試合進行にも責任を持ち,試合指揮も適宜行うことにします。

 

 

 

 

 

 

2.2.1 ジャッジのスピーチ中の試合指揮

 

 

 

ジャッジ(とりわけメイン・ジャッジ)は,試合の単なる進行以外にも,教育的な観点から必要最低限の試合指揮を行うことにします。以下に該当するケースでは,スピーチを途中でさえぎってでも当事者を注意することにします。スピーチ伝達上の問題がある場合:スピーチがあまりに小さい声で行われている,もしくは高校生が理解できる通常の英語会話スピードをはるかに上回るスピードでスピーチが行われている場合。*なお頻発する基本単語の発音が完全に間違っている場合などは,準備時間やスピーチの合間などに,やんわりと指摘してあげることにします。質疑の進行に問題がある場合:質疑が質問形式でなく,延々とスピーチになっている場合*( “Please ask questions!”とやんわりと注意)。質疑が攻撃的になっている時*( “Please calm down!”など)。応答側が,明らかに答えを引き延ばそうとしているとき,あるいは,あまりに質問がないときなど。

 

静寂性の確保の上で問題がある場合:スピーチ中に私語や,異音(よくあるのはボールペンのカチャカチャ音)を発している生徒・観客がいる場合。試合場周辺の物音がひどい場合など。

 

 

 

 

 

 

2.2.2 スピーチ中の試合指揮を行った場合の試合時間

 

以上のようなケースで試合指揮をした場合のうち,3.静寂性の確保が問題となり,あるチームがスピーチを妨害された形になる場合には,スピーチ時間計測を一時中断し,場合によっては多少延長してあげる形で,スピーチを妨害された「被害者」に損がでず,できるだけ公平になるように心がけることにします(逆に,スピーチが早すぎるのを注意された場合・質疑の場合などは,自己責任とみなして時間計測上の便宜を図る必要はありません)。

 

 

 

 

 

 

2.2.3 試合指揮の制限(議論の中身には口を出さない)

 

ジャッジがスピーチ中に議論の内容にまで直接踏み込んで発言や質問することや,試合終了前の準備時間などに個々の論点への反論・疑問などを呈示することは,やめてください。内容が分からない・馬鹿げていると感じる論点は,その場では注意せずに,単に勝敗にカウントされない弱い論点として取り扱う(場合によっては無視する)ことにします。もちろん試合後にこうした論点についてアドバイスすることは,むしろ積極的に行うことにします。よい議論についてうなずいてあげたり,ジョークに対して笑ってあげたりすることを,ジャッジが抑制する必要はありません。生徒がジャッジを観るという態度を涵養するためにも,ジャッジは自然な表情で反応をすることにします。

 

 

 

 

 

 

2.2.4 試合の後の方ででた「新しい議論」の取り扱い

 

ジャッジは勝敗の判定にあたって,ディフェンスや総括など試合の後半で初めて提出された「新しい議論」を,原則として無視するか弱い議論と判断して判定理由にいれないことにします。これは,相手チームからの反論の有無にかかわらないものとします。*2.1の「各スピーチの役割と注意事項」を参照してください。議論のこうした「後出し」を制限するのは,フェア・プレーの精神に違反するだけでなく,議論を効果的にぶつけ合うことを促進するという教育的な観点からしても,できる限り行わないように誘導していくべきです。なお,「新しい議論」に明らかに相当するのは,ディフェンスや総括などで新しいプランやメリットやデメリットに相当するような議論が出た場合です。総括などで相手チームのメリット・デメリットの証明に対して,新しいアタックの証拠資料が出た場合もこれに相当します。とりわけ総括など,相手チームには反論の機会が著しく限られている状況で新しい議論が出された場合は,端的に判定理由から除外することにします。ただし総括などで,双方の議論をより深い角度から比較するような言及や証拠資料がでた場合などは,あくまで正当な比較であるので,新しい議論として軽視すべきではありません。

 

 

 

 

 

 

2.2.5 コミュニケーション・ポイントの採点

 

各ジャッジは,各チームに10点満点・最低点1点のコミュニケーション点をつけることにします。(小数点はなし,整数のみ)。コミュニケーション点は,各チームがどれだけ効果的に聴衆・ジャッジとコミュニケーションをとることに成功したかで採点することにします。基準は,反則などの減点がない限り,次のようなスケールで採点することにします。(平均が6となるようにします。10や2は例外的な点数とする。1は反則の場合のみつける点数とする)

 

 

 

 

 

 

10 excellent

 

全てのスピーチが分かりやすい(スピードも適切で,間の取り方なども良い)。かつチームの全員が聴衆とコミュニケーションがとれている(アイコンタクトも適切で,マナーも良い)

 

9

 

 

8 good

 

ほとんどのスピーチが分かりやすい。ほとんどのメンバーが聴衆とおおむね良くコミュニケーションができている

 

7

 

 

6 average

 

多少の難はあるが,おおむねスピーチもわかりやすく,メンバーの過半が問題ないコミュニケーションができている

 

5

 

 

4 below average

 

スピーチが分かりにくくなることが目立ち,コミュニケーションが取れていないことも目立つ

 

3

 

 

2 poor

 

スピーチのほとんどが分かりにくく,チームの誰もコミュニケーションを取れていない

 

 

 

 

 

 

2.2.6 コミュニケーション・ポイントの減点

 

あるチームの①メンバーの試合態度が悪い(私語・異音で妨害したり,ジャッジの試合指揮に従わない),②質疑の際に対戦相手へのマナーが悪い,③あまりに質疑に応答しない,④相手側の証拠資料の閲覧に協力しない場合には,ジャッジはその違反のひどさに応じて,適宜コミュニケーション・ポイントを減点するものとします。

 

減点があった場合でも,最低点が1点を下回ることはないものとします。

 

 

 

 

 

 

2.2.7 判定の変更禁止と,ジャッジへの抗議の禁止

 

判定は,ジャッジが集計用紙を大会本部に一度提出した後は,変更できません(試合後に証拠資料などについて反則行為が判明した場合には,大会の審査委員会の方で勝敗の変更を行うことはありえますが,ジャッジが試合内容を再考した結果の判定変更は認められません。)試合内容については,原則としてジャッジの判断が最終判断となります。判定内容についてのジャッジへの抗議は,一切禁止とします。万が一,抗議とおぼしき言動がチームのメンバーや顧問などからあった場合,ジャッジは大会本部に報告することにします。抗議があった場合,予選通過資格・ベストディベーター資格の喪失などの処罰の対象とします。*ディベートでは,ジャッジにどう伝わったかで判定するため,負けになったということはどこかで伝え方が問題だったと言うことを意味します(自分のチームの議論が伝わらなかった場合には,何故伝わらなかったかを謙虚に考えるべきです)。チームは,著しく不公正な試合運営などが行われたと考える場合のみ,大会本部に抗議を行ってください。

 

 

 

 

 

 

2.3 スピーチと準備時間

 

 

 

スピーチは,三人チームであるか四人チームであるかによって異なる担当表に記入されたスピーチ担当者が,メイン・ジャッジからの合図に従い,定められた時間のスピーチを行ってください。

 

 

 

 

 

 

2.3.1 スピーチを行う場所

 

各チームは,ジャッジからみて左側に肯定側,右側に否定側となるような定位置に席につくものとします。各スピーチの担当者は,基本的にチームの定位置の席にて起立して行ってください。やむを得ない事情のある場合を除き,スピーチ中はずっと起立して行ってください(質疑応答の質問者も含む)。ただし本選の決勝戦や準決勝戦や,特殊な形状の教室が会場となっている場合には,大会運営者・ジャッジの指示などに従って演壇などでスピーチを行ってください。なおジェスチャーやプレゼンテーションの関係で,ジャッジや相手チームの方に歩み寄るなどの仕草をすることは,多少であれば問題ありません。

 

 

 

 

 

 

2.3.2 時間の計測

 

スピーチ時間は,原則としてタイム・キーパーのタイマーで計測した時間を基準とすることにし,ディベーターのタイマーなどには従わないものとします。万が一,タイマーの故障・誤操作等でスピーチ時間の計測に明らかに問題があったと考えられる場合には,メイン・ジャッジの判断で,公平性が確保されるように,どちらかのチームが不利にならないように,スピーチのやり直し,スピーチ時間の延長などを行うことにします。

 

 

 

 

 

 

2.3.3 スピーチ時間の終了

 

スピーチ時間の途中でたとえディベーターが発言を終了しても,タイマーを途中で終了させず,必ず定められたスピーチ時間の終了を待って,スピーチの終了とします。 定められたスピーチ時間を終了した時点で,発言している最後の文を終えることは許されます。ただしその場合にも,終了後10秒を越えて発言することは一切許されません。その後に行われた発言をジャッジは一切無視することにします。

 

 

 

 

 

 

2.3.4 スピーチ中の交代の禁止と,チーム内でのメッセージ伝達

 

各スピーチはあらかじめ届け出たディベーターが一人で最後まで行ってください。途中で交代することも,他のチームメートと共同で行うことも許されません。スピーチ中のディベーターに対して,チームメートが助言をすることは許されます。ただし助言は書かれたメモで行うか,ジャッジや相手チームに聞こえないような小声で伝えるものとします。大きな声で助言などが行われた場合は,コミュニケーション点の減点の対象とします。なお試合中(準備時間も含む)に助言を行えるのは,出場しているチームメートのみであり,観客席などから助言や資料・メモなどが差し出された場合,それまでの試合進行にかかわらず原則として無得点の敗北扱いにします(その場合,相手チームは,不戦勝扱いにします)。

 

 

 

 

 

 

2.3.5 準備時間

 

準備時間の途中でスピーチを開始することは許されません。必ず,スピーチ開始の合図の後,各スピーチを始めるものとします。なお準備時間中の打ち合わせは,その直後にスピーチを行うチームだけでなく,両チームとも相談の打ち合わせを行うことができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. 証拠資料

 

 

 

3.1 証拠資料

 

証拠資料を引用することは,客観的な根拠によって裏付けられた議論をするためには,きわめて効果的です。この大会でも,特に立論などにおいては良い証拠資料を適切に用いることを強く奨励します。

 

 

 

 

 

 

3.1.1 証拠資料の種類

 

証拠資料としては,①客観的な事実データ(統計や法令など)を含む証拠資料の使用が奨励されます。②権威のある専門家による証言・分析や,③新聞記事や信頼できる通信社のニュースなども,自分たちの議論を補強することに役立ちます。

 

 

 

 

 

 

3.1.2 証拠資料についての注意事項:過度の引用は不要

 

証拠資料を引用しているかいなかで,試合の勝ち負けが決まるわけではありません。自分たちの議論を効果的に証明するための具体例などは,引用なしでも挙げられる場合もあります。また資料を引用したとしても,質の低い資料の場合,効果はありません。*例えば,大衆週刊誌などの記事,素人による単なるブログやネット書き込み,単なる評論家の意見や,専門家であっても畑違いの分野などについての意見などは,単なる主観的な(自分勝手な)意見にすぎず,客観的な証拠にはならないケースがほとんどです。

 

 

 

 

 

 

3.1.3 証拠資料についての禁止事項:証拠資料の不正使用の厳禁

 

自分に都合の良いように証拠資料を捏造したり,英訳をする際に原文を歪曲したりすることは禁止します。もしそうした違反行為が試合中や試合後に発覚した場合,その試合は無得点敗北になるだけでなく,予選通過資格・ベストディベーター資格の喪失,また賞の取り消しなどの処罰を行います。*捏造とは,存在しないものをさもあるように見せかけることです。歪曲とは,筆者の述べていることの途中を取り出したり,言い換えたりすることで都合の良いようにねじ曲げることです。ともにディベートや議論を学ぶものとして絶対にやってはいけない行為です。こうした行為を,学校として組織的に行ったことが判明したなど悪質な場合には,来年度の大会への出場禁止などのさらに厳しい措置を行うこともあります(罰にあたっては,審査委員が,チームや顧問の弁明を聞いた上で審査し,書面等で公開します)。とりわけ専門家の証言を用いる場合などは,その専門家の意図をねじ曲げることは許されません。*例えば「○○は××だ,という意見がある,しかしこれは~だから間違いだ」ということを専門家が本で述べているのを見つけて,「○○は××だ」という部分だけ引用してあとを省略すると,専門家の本当に言いたかったことをねじ曲げることになります。そのような省略や要約は厳禁です。

 

 

 

 

 

 

3.2 証拠資料の引用の仕方

 

ディベートは,マス・メディアなどの様々な情報源からの発信を鵜呑みにせず客観的に情報を分析する能力であるメディア・リテラシー(media literacy)を向上させるための場でもあります。正しいメディア・リテラシーを身につけるためにも,大会では以下の点に注意してください。

 

 

 

 

 

 

3.2.1 引用するさいに必ず述べるべきことがら

 

引用する前には,資料の種類に合わせて,次のことがらを口頭で述べてください。

 

 

 

①事実データについては以下の二つをスピーチで必ず述べてください

 

a) 統計や事実の出典(白書・官庁統計,ホームページ,法律の名称など)

 

b) 統計や法令の年度

 

 

 

②専門家による証言・分析については以下の二つをスピーチで必ず述べてください

 

a) 専門家の氏名

 

b) 肩書き・権威(例,「経済学の教授で○○の分野の第一人者」など,何故その人のいうことが信頼できるか)

 

 

 

③新聞記事やニュースについては以下の二つをスピーチで必ず述べてください

 

a) 新聞社や通信社の名前

 

b) 日付

 

 

 

引用にあたっては,原文を一語一句抜かさない全文引用(direct quotation)である必要はありません。原文のデータを変えない,原文の意図を正確に捉えている限りは,要約しても構いません*もっとも,全文引用した方が,たいていの場合説得力はあがります。また一句を抜かすことで,証拠の意味が変わる場合などの省略は許されません。不正使用となり反則です。

 

 

 

 

 

 

3.2.2 証拠資料の英訳

 

日本語の資料を引用する場合には,英語に訳してから用いてください。その場合,できる限り原文に忠実な英訳になるように注意してください。日本語の文章を要約して引用する場合も,著者の結論や事実をねじ曲げないように細心の注意を払ってください。原文のねじ曲げや,原文を大げさに翻訳・要約した場合には,不正使用となり反則扱いとします。

 

 

 

 

 

 

3.2.3 グラフや表などのプレゼンテーション

 

証拠資料をグラフや表などの分かりやすい形にして,視覚に訴えるかたちで補助的に利用することは,許されます。その場合,図やグラフは大きめに書き,ジャッジ全員と対戦相手,観客に見えるように工夫してください。この大会では,オーラル・コミュニケーションをすること,つまり口で説明することが大原則です。図表は補助的なものにしてください。*図表に書いたことは,基本的には全て読み上げることが必要です。大きな部屋などでは特にそうですが,図表が見えなくても話し言葉だけで十分中身が分かるようなスピーチにしなくてはなりません。

 

 

 

 

 

 

3.2.4 証拠資料の記録の義務,保存・持ち運びの奨励

 

引用やグラフ・図表を使った場合には,その引用やデータが記された書籍や雑誌などの出所が分かるように,①雑誌・書籍名,②出版の日時,③ページを余白などに記録しておいてください。これは証拠資料に対する分析力(media literacy)を向上させるためにも,証拠資料の不正を防止するためにも必要ですので,必ず行ってください。できるかぎり引用箇所のページのコピー(インターネットの場合印刷したもの)を大会会場に持ってきて,対戦相手やジャッジに試合中・試合後に求められたら見せられるようにしてください。原文を見せられない・忘れた場合には,その場で対戦相手とジャッジに謝罪してください。なおインターネット資料の場合,データが入れ替わることもあるので,必ずアドレス・日時をメモしてください。また,できるかぎりプリントアウトして持ち運びして,求められたときに相手に見せられるようにしておいてください。

 

 

 

 

 

 

3.2.5 証拠資料の閲覧(証拠取り調べ)

 

試合中に引用した文章やチャート(および英訳された資料については,その原文について),相手チームは,必要な限り自分のスピーチ前の準備時間中に借りて閲覧し,詳しくチェック(証拠取り調べ)することができます。ディベートにおいて学んで欲しいことに,資料を鵜呑みにしない批判力があります。そのためにも是非,引用資料は,相互に快く貸し借りをしてください。ただし相手のスピーチ前の準備時間など,相手の準備の妨害になるような形で資料を借りることは許されません(サマリー・スピーチの前の準備時間は双方が準備しているので,相手の迷惑にならないように)。また借りた証拠資料は,準備時間・スピーチが終わったら原則返却し,相手チームの不利益にならないようにしてください。

 

 

 

 

 

 

以上